EPOの異議では新たな事実または証拠の後出しが認められません

EPC114条(2)に従い欧州特許庁の異議部は異議申立期間終了後に異議申立人によって提出された新たな事実または証拠(facts or evidence)を時機に遅れた(late-filed)として無視する権限を有しています。

EPC 114(2)
The European Patent Office may disregard facts or evidence which are not submitted in due time by the parties concerned.

実際の運用としては議申立期間終了後に異議申立人によって提出された新たな事実または証拠は、一見して重要(prima facie relevant)でなければ異議部に考慮されません(GL Part E, VI 2.)。

一方EPC114条(2)は時機に遅れた事実または証拠(facts or evidence)を無視する権限を異議部に与えていますが、時機に遅れた主張(arguments)を無視する権限を異議部に与えていません。このため欧州特許庁の異議部は既に提出された事実または証拠に基づく新たな主張(new arguments)を無視することができません(GL Part E, VI 2.)。

ここで重要になるのが「主張(arguments)」、「事実(facts)」および「証拠(evidence)」という用語が欧州特許庁によってどのように使い分けられているかです。

欧州特許庁のガイドラインに開示されている用語の使い分けの例は以下の通りです(GL Part E, VI 4.2)。

The opponent asserts that the preamble to claim 1 is described in document A, the characterising portion in document B (facts). To prove this, documents are submitted (evidence). The opponent then contends that the method claimed does not involve an inventive step, because the skilled person, on the basis of common general knowledge, would have combined the submitted documents in such a way as to arrive at the subject-matter of claim 1 (argument).

和訳:
異議申立人は、請求項1のプレアンブルは文献Aに、特徴的部分は文献Bに記載されていると言い張っている(事実)。これを証明するために文献が提出された(証拠)。そして、異議申立人は、当業者であれば、技術常識に基づいて、請求項1の主題に到達するように提出された文献を組み合わせたであろうから、請求項に記載された方法は進歩性を伴わないと主張した(主張)。

上記例における「請求項1のプレアンブルは文献Aに、特徴的部分は文献Bに記載されていると言い張っている」は主張に該当すると思われがちですが、実は事実に該当します。したがって文献Bが異議申立期間内に提出されていたとしても、異議申立期間終了後に「特徴的部分は文献Bに記載されている」との指摘を追加することは新たな事実の追加となり、異議部に無視され得ます。

さらに異議申立時に「特徴的部分は文献Bの段落0020に記載されている」と指摘していた場合であっても、異議申立期間終了後に「特徴的部分は文献Bの段落0220に記載されている」という別の段落を参照した指摘を追加することも新たな事実の追加になり異議部に無視され得ます。

このように欧州特許庁の異議では新たな主張は常に認められるものの、その適用範囲は実はそれほど広くありません。したがって欧州特許庁で異議を申し立てる際には、単に証拠文献を列挙・提出するだけで満足するのではなく、その証拠文献の中で異議の審査で重要になりそうな箇所は異議申立時に全て指摘しておくことが大切です。

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