EPOの審判でよくある誤解

欧州特許庁によって拒絶決定や異議決定がなされた場合、その決定に対して審判(Appeal)を請求することができます(EPC106条)。この欧州特許庁における審判、日本特許庁における拒絶査定不服審判や無効審判などと「審判」という名称が共通することから日本の審判手続きと似たような手続きと思われている方が多いと思います。

しかし欧州特許庁における審判は特許庁の決定に対する不服申立手段である点は日本特許庁の審判と共通するものの、法的性格および手続きの視点から日本特許庁の審判とは異なる点が多々あります。

以下に日本の実務家がしがちな欧州特許庁の審判に関する誤解を紹介します。

① 審判って誰でも請求できるんでしょ?

いいえ。審判が請求できるのは欧州特許庁の決定によって不利な影響を受けた当事者のみです(EPC107条)。実際は審査部の拒絶決定を受けた出願人そして異議部の決定によって不利な影響を受けた当事者のみが審判を請求することができます。

このため当事者でない第三者が請求できる日本特許庁における無効審判に対応する手続きは欧州特許庁にはありません。また欧州特許庁にはLimitationと呼ばれる訂正審判に準ずる手続きが存在しますが(EPC105a条)、審判部(Board of Appeal)の管轄ではありません。

② 審判って第一審(審査部または異議部の審査)の続きでしょ?

いいえ。欧州特許庁における審判の目的は第一審の決定の正しさについて司法的決定を下すことであり、第一審の審査を続行することが目的ではありません(G9/91)。このため審判における審理は第一審における証拠等に基づいて第一審の決定に誤りがなかった否かの検討に集約されます。

③ 審判では新たな証拠、補請求を追加できるんでしょ?

いいえ。上述のように欧州特許庁における審判の目的は第一審の決定の正しさについて司法的決定を下すことです。したがって第一審で審査の対称とならなかった証拠、補正案等は原則審判の審理の対象とはなりません。つまり審判部は第一審で提出されなかった証拠、補請求等を却下することができます(審判手続規則12条(6))。

④ 審判部は職権探知ができるんでしょ?

いいえ。上述のように審判の目的は司法的決定を下すことであり、審判は司法手続とみなされます。このため民事訴訟手続きの原則である処分権主義(Dispositionsmaxime)が採用されるため当事者が申し立てない理由を職権で審査することはできません(G9/92)。

⑤ 審判を取り下げても職権で手続きが続行されるんでしょ?

いいえ。上述のように処分権主義(Dispositionsmaxime)により審判取下げ後は審判部は審理を続行できません(G7/92)。

⑥ 審判で負けても裁判所とかでさらに争えるんでしょ?

いいえ。一定条件を満たせば例外的に再審が認められることがありますが(EPC112a条)、通常は審決に対する不服申立手段はありません。つまり欧州特許庁では審判が最終審となります。

まとめ

上述のように日本特許庁における審判と比較して欧州特許庁における審判では司法的手続の側面が強いです。このため証拠や補請求の追加が認められなかったり職権主義の代わりに処分権主義が採用されます。

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