欧州特許庁は補正による新規事項の追加に厳しいことはご存じの方も多いかと思います。これは欧州特許庁が出願の開示内容を把握する際に「直接的かつ明確に(directly and unambiguously)」導き出せることを「gold standard(絶対的基準)」として採用していることに起因します。
この「gold standard」により、欧州特許庁では例えば明細書から一部の特徴のみを抽出する補正が認められなかったり(過去の記事「欧州では一部の特徴のみを抽出する補正は新規事項追加と判断されることがあります」をご参照ください)、従属クレーム同士を組み合わせる補正が認められなかったりします(過去の記事「欧州では単従属クレーム同士を組合せる補正が新規事項の追加と判断されることがあります」をご参照ください)。
この「gold standard」、実は補正による新規事項の追加の判断の際だけではなく、以下のガイドラインの記載からも明らかなように新規性判断時の引用文献の内容を把握する際にも用いられます。
GL G-VI, 2
A document takes away the novelty of any claimed subject-matter derivable directly and unambiguously from that document including any features implicit to a person skilled in the art in what is expressly mentioned in the document […].
したがって引用文献の内容を把握する際には、明確な組合せの教唆が無い限り、同一の引用文献内の異なる実施形態や異なる段落の特徴を組み合わせることは許されません(T 305/87、T 1988/07)。
この考えは情報提供や異議で欧州特許出願または欧州特許を攻撃する際に非常に重要です。
例えばA、B、CおよびDを含む組成物がクレームの新規性を、以下のような開示内容を含む先行技術文献で攻撃したとします。
「本記載の組成物はAおよびBを有する。ある実施形態では組成物はCをさらに含んでいてもよい。また、ある実施形態では組成物はDをさらに含んでいてもよい。」
この場合クレームされたA+B+C+Dの組合せに到達するには、先行技術文献内の異なる実施形態の組合せが必要になります。しかしこのような組合せは「gold standard」により許されないので、新規性が認められることになります。
このように欧州特許庁では新規性を否定するためのハードルがかなり高いです。
上記例のA、B、CおよびDを含む組成物のクレームの新規性を否定したい場合は、A、B、CおよびDの組合せを明確に開示する実施例または実施形態を含む先行技術文献が無い限り難しいです。
したがって情報提供や異議で欧州特許出願または欧州特許を攻撃することを検討されている場合は、クレームの特徴をバラバラに開示した先行技術文献を見つけるだけで満足するのではなく、クレームの特徴の組合せが1の実施例または実施形態で開示された先行技術文献を徹底的に探すことをお勧めします。
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