拡大審判部の審決G2/21の解説

既にJetroなどのニュースでも取り上げられているのでご存知の方も多いかと思うのですが、証拠の後出し(post published evidence)の取扱いの問題を扱ったG2/21について欧州特許庁の拡大審判部の審決が公表されました。

これまでのG2/21の背景については以下の過去の記事をご参照ください。

弊所が代理する案件がEPOの拡大審判部で審査されます 
Ab initio plausibility、Ab initio implausibilityおよびNo plausibilityの定義 

以下に欧州特許庁の拡大審判部の審決について解説します。

I.拡大審判部による結論(Headnote)

拡大審判部の結論は以下の通りです。

1.特許出願人または特許権者が、クレームされた主題事項の進歩性を認めるために依拠した技術的効果を証明するために提出した証拠は、その効果の根拠となる当該証拠が訴訟中の特許の出願日前に公開されておらず、その日の後に提出されたという理由のみで、無視することはできない。

2.特許出願人または特許権者は、技術常識を念頭に置いて、当初の出願に基づき、当業者が技術的教示に包含され、同一の当初開示された発明によって具体化されるものとして当該効果を導き出せる場合、進歩性に関する技術的効果に依拠することができる。

II.結論の解釈

1. 項目1

Headnoteの項目1は自由心証主義に関する結論です。自由心証主義に例外は無いとする当該結論は既に予備的見解でも口頭審理でも既に述べられていました。

また拡大審判部の審決文段落58および59でも述べられているように自由心証主義の適否は本ケースのコアの質問であるどのような場合にpost published evidenceが認めらるか否かとは関係がありません。

2. 項目2

Headnoteの項目2が本ケースのコアの質問であるどのような場合にpost published evidenceが認めらるか否かの核心に迫る結論です。

しかしながら拡大審判部自身も審決文段落95で認めているよう当該項目2によって定められた基準は極めて抽象的です。

したがって当該項目2によって定められた基準を解釈するには拡大審判部が当該結論に至った背景および理由を慎重に分析する必要があります。

拡大審判部は当該問題について審決文段落60~72で議論しています。まず拡大審判部は審決文段落60~69でpost published evidenceに関する最近のEPOの審判部の審決を20引用し、分析しています。

この分析の際、拡大審判部は20の審決を以下の3つのカテゴリーに分け、重要と思われる箇所を引用しています。
(1)no-plausibility(段落65:T 31/18、T 2371/13)
(2)ab initio plausibility(段落66~68:T 1329/04、T 235/13、T 787/14、T 488/16、T 2200/17、T 377/18、T 391/18、T 1442/18、T 415/11、T 1791/11、T 1322/17)
(3)ab initio implausibility(段落69:T 536/07、T 1642/07、T 1677/11、T 919/15、T 2097/15、T 184/16、T 2015/20)。

その後拡大審判部は審決文段落70~71で以下のように当該結論に至っています。

the Enlarged Board understands from the case law of the boards of appeal as common ground that the core issue rests with the question of what the skilled person, with the common general knowledge in mind, understands at the filing date from the application as originally filed as the technical teaching of the claimed invention.

和訳
拡大審判部は、審判部の判例から、核心的な問題は、技術常識を念頭に置いた当業者が、出願日において、クレーム発明の技術的教示として出願当初の出願から何を理解しているかという問題にあると理解する。

当該結論がまさにHeadnoteの項目2の基準の基礎を構成しています。

また拡大審判部は審決文段落72で引用された20の審決を再考察(review)しないと明記しています。これは引用された20の審決で用いられた基準は今後も有効であることを意味します。

Applying this understanding to the aforementioned decisions, not in reviewing them but in an attempt to test the Enlarged Board’s understanding, the Enlarged Board is satisfied that the outcome in each particular case would not have been different from the actual finding of the respective board of appeal.

和訳
この理解を前述の決定に適用することは、それらを見直すためではなく、拡大審判部の理解を検証するための試みであり、拡大審判部は、それぞれの特定のケースにおける結果は、それぞれの審判の実際の認定と異なることはなかったと確信している。

つまり拡大審判部は引用された20の判例では共通して「技術常識を念頭に置いた当業者が、出願日において、クレーム発明の技術的教示として出願当初の出願から何を理解しているか」という共通かつ有効な基準を用いてpost published evidenceを認めるか否かの判断がなされていると示唆しています。

このため「技術常識を念頭に置いた当業者が、出願日において、クレーム発明の技術的教示として出願当初の出願から何を理解しているか」という基準を理解するには審決文段落60~69で拡大審判部によって引用された審決20を比較分析する必要があります。

実は私自身当該審決20を全て包袋レベルから分析・比較し「技術常識を念頭に置いた当業者が、出願日において、クレーム発明の技術的教示として出願当初の出願から何を理解しているか」が具体的に何を意味するのかについて固まった見解があります。

しかし本事件の当事者を代理していること、そしてこれから差戻審での口頭審理を控えているといことから現時点での見解の公表は控えさせていただきます。

差戻審での決定が公表されましたら改めてG2/21を総括したいと思います。

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