欧州では一部の特徴のみを抽出する補正は新規事項追加と判断されることがあります

以前の記事「日本の実務家がしがちな欧州での危険な補正の形態4つ」では特徴の組合せから一部の特徴のみを抽出する補正は中間一般化(Intermediate Generalization)と呼ばれ欧州特許庁では新規事項追加を指摘されるリスクが高いと説明しました。

今回はこのような中間一般化を伴う補正が新規事項を追加すると判断された欧州特許庁の判例T1067/97を紹介します。

I. 背景

出願当初クレーム1

[…]現像補充液のSiO2/M2Oモル比が0.6~1.5であることを特徴とする感光性平版印刷版の印刷処理方法。

明細書の抜粋

[…]本発明の特に好ましい態様においては、現像液としてSiO2/M2Oモル比が1.0~1.5およびSiO2濃度が1~4w%のアルカリ金属珪酸塩水溶液が用いられる。

補正後のクレーム1

[…]現像補充液のSiO2/M2Oモル比が0.61.0~1.5であることを特徴とする感光性平版印刷版の印刷処理方法。

II. 論点

「現像液としてSiO2/M2Oモル比が1.0~1.5で、SiO2濃度が1~4w%のアルカリ金属珪酸塩水溶液」という特徴の組合せから「SiO2/M2Oモル比が1.0~1.5」のみを抽出する補正は新規事項を追加するか?

III. 欧州特許庁の審判部の判断

当該補正は新規事項を追加する。

IV. 判決文の抜粋

According to established jurisprudence of the boards of appeal, if a claim is to be restricted to a preferred embodiment, it is normally not admissible under Article 123(2) EPC to extract isolated features from a set of features which have originally been disclosed in combination for that embodiment. Such kind of amendment would only be justified in the absence of any clearly recognisable functional or structural relationship among said features.

In the present case, a skilled reader cannot be assumed to have any doubts as to whether both the molar ratio and the SiO2 concentration of the developer have to be selected in a specific way to arrive at the preferred aqueous solution, the selection then leading more or less automatically to an adaptation of the “alkali strength” of the replenisher. This follows from the use of the conjunction “and” and from the fact that there is no disclosure indicating that the above parameters of the developer may be selected separately. […]

For these reasons, the subject-matter of claim 1 of the main request extends beyond the content of the application as filed, and claim 1 is accordingly not allowable (Article 123(2) EPC).

審判部の確立された判例によれば、クレームが好ましい実施形態に限定される場合、EPC123条(2)により、当該実施形態で組合せとして開示された特徴の集合から単独の特徴を抽出することは通常許されない。このような補正は、特徴の組合せに明確に認識できる機能的又は構造的関係がない場合にのみ正当化される。

本件において、当業者は、好ましい水溶液に到達するために、現像液のモル比とSiO2濃度の両方を特定の方法で選択すべきかどうか、そしてその選択が補充剤の「アルカリ強度」の自動的な調整につながるかどうかについて、確信することができない。このことは接続詞「および」の使用、および現像剤の上記パラメータを別々に選択することができることを示す開示がないことから明らかである。[…]

これらの理由により、本主請求のクレーム1の主題は、出願時の出願内容を超えており、したがって許可されない(EPC第123条(2))。

V. 解説

日本では中間一般化を伴う補正は一般的に用いられ、そして新規事項追加を指摘されることもまずありません。このためこの中間一般化を伴う補正は日本の実務家が欧州で最も陥りやすい実務上の落とし穴の1つになります。

一般的に明細書に基づく補正はこの中間一般化を伴うことがほとんどなので、明細書に基づく補正は欧州では常に新規事項追加のリスクが伴います。

この中間一般化による新規事項追加のリスクを避けるため、特許性に寄与しそうな特徴は予め出願時に従属クレームとして追加しておき、欧州における安全な補正用の特徴のストックを確保しておくことをお勧めします。

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