UPCではクレーム解釈に包袋内容も参酌され得ます

以前の記事「ドイツの裁判所によるクレーム解釈の原則」でも述べましたが、ドイツではクレーム解釈に際し参酌されるのは特許公報の明細書および図面のみであって、出願時の明細書および図面ではないと説明しました(X ZB 7/81)。このため例えばドイツの侵害訴訟におけるクレーム解釈では、出願時の明細書や審査過程でなされた補正などの包袋内容は参酌されません(X ZR 43/01)。また最近の欧州特許庁の審決でも異議におけるクレーム解釈で参酌されるのは特許公報の明細書および図面のみとした例もあります(T 0450/20)。

ところが統一特許裁判所(UPC)は、ドイツそして欧州特許庁とは異なり、侵害訴訟のクレーム解釈において包袋内容を参酌する可能性があります。

今回はUPCのミュンヘン地方部が仮差止手続のクレーム解釈において出願時の明細書そして審査過程でなされた補正を参酌した判決UPC-CFI-292/2023を紹介します。

I. 背景

特許公報のクレーム1

一連の分散された電子ラベル(3)を有する売り場用の電子ラベル(3)であって[…]、
– […]無線周波数通信モジュール(32)と、
– […]メモリ(33)と、
– […]表示画面(31)と、
– […]マイクロコントローラ(34)と、
– ハウジング(30)と、
– 前記ハウジング(30)の背面側に収納され、前記無線周波数通信モジュール(32)、前記メモリ(33)および前記マイクロコントローラ(34)が配置されたプリント基板(35)と、
– […]アンテナ(38)およびNFCまたはRFIDタイプの電子チップ(37)とを備える無線周波数デバイス(36)と、を有し、
[…]前記電子チップ(37)は、前記プリント回路基板(35)上に配置され、
前記アンテナ(38)は、前記電子ラベル(3)の前面側のハウジング上またはハウジング内に配置される電子ラベル(3)。

特許公報の明細書

[0038]
アンテナを[…]チップ37に隣接して配置すると、距離が短縮され、次いで読取りが電子ラベル3(一般に1cmの厚さを有する)の表示画面31を通って行なわれなければならず、プリント回路基板による電磁妨害が生じるので、読取りの信頼性が低下する恐れがある。

[0039] したがって、アンテナ38をチップ37から分離するのが好ましい。

出願時のクレーム

[…]前記電子チップ(37)は、プリント回路基板(35)上に前記アンテナから離間して配置される電子ラベル(3)。

II. イ号

アンテナは黄色で囲んだ部分の裏側に配置されている。つまりハウジングを閉じたときアンテナの一部はハウジングの背面に接触する。

III. 特許権者の主張

特許公報のクレーム1における「前記アンテナ(38)は、前記電子ラベル(3)の前面側のハウジング上またはハウジング内に配置される」とは、アンテナが表示画面とプリント回路基板との間のいずれかの位置に配置されていることを意味し、アンテナの一部がハウジングの背面に接触する形態も含む。したがってイ号は特許公報のクレーム1の技術的範囲に含まれる。

IV. UPCミュンヘン地方部の判断

特許公報のクレーム1における「前記アンテナ(38)は、前記電子ラベル(3)の前面側のハウジング上またはハウジング内に配置される」は、アンテナの一部がハウジングの背面に接触する形態を含まない。したがって、イ号は特許公報のクレーム1の技術的範囲に含まれない。

V. 判決の抜粋

Bereits die ursprüngliche Anspruchsfassung, welche im Zusammenhang mit im Erteilungsverfahren vorgenommenen Änderungen als Auslegungshilfe herangezogen werden kann, hatte einen unmittelbaren Zusammenhang zwischen dem auf der gedruckten Leiterplatte angeordneten Chip und der Antenne hergestellt. Dort war formuliert, dass der auf der gedruckten Leiterplatte angeordnete Chip und die Antenne voneinander beabstandet sein sollen („…à distance de…“). Technischer Zweck des in räumlicher Hinsicht vorgesehenen Abstands war die Interferenzbeschränkung. Der solchermaßen zu erzielende technische Effekt sollte nach der im Erteilungsverfahren vorgenommenen Änderung der Anspruchsfassung wie folgt präzisiert werden:

“…et à distance de l’antenne (38) du périphérique radiofréquence étant dis-posée sur ou dans le boitier du côté de la face avant de ladite étiquette élec-tronique.”

Antenne und Leiterplatte sollen nach dem Anspruchswortlaut der erteilten Fassung also gewissermaßen diametral voneinander angeordnet werden, die Leiterplatte
„in dem Gehäuse auf der Seite der hinteren Fläche des Gehäuses“
und die Antenne
„auf oder in dem Gehäuse
auf der Seite der vorderen Fläche des elektronischen Etiketts“, wobei die Antenne sowohl auf oder in dem Gehäuse angeordnet sein kann.
Damit beschreibt der Patentanspruch die Lage (Anordnung) dieser beiden Bauteile im Raum (Gehäuse) und somit mittelbar im räumlichen Verhältnis zueinander; dabei ist der für die Anordnung relevante Bezugspunkt jeweils das Gehäuse des elektronischen Etiketts mit seinen Seiten und deren Flächen. Auf diese beziehen sich beide Anspruchsmerkmale. Aus der solchermaßen vorgenommenen räumlichen Abgrenzung ergibt sich, dass ein der Seite der vorderen Fläche des elektronischen Etiketts zuzuordnendes Bauteil nicht gleichzeitig der Seite der hinteren Fläche des Gehäuses zugeordnet werden kann – und umgekehrt. Aus der aus technischen Gründen für erforderlich gehaltenen Beabstandung von Chip und Antenne ergibt sich vielmehr, dass eine eindeutige Zuordnung zu der jeweils als Bezugspunkt gewählten Fläche vorgenommen werden kann und muss. Aus dem Anspruchswortlaut und dem technischen Zweck der räumlichen Anordnung ergibt sich ferner, dass die Antenne als solche uneingeschränkt und damit im Ganzen auf der Seite der vorderen Fläche des elektronischen Etiketts angeordnet sein soll. Aus dem Anspruchswortlaut und dem technischen Zweck der räumlichen Anordnung ergibt sich außerdem, dass der Chip im Ganzen auf der Seite der hinteren Fläche des Gehäuses angeordnet sein soll.

[…]

Soweit die Klägerin die Ansicht vertritt, es sei nicht relevant, dass die Antenne teilweise mit der Innenseite der Rückseite des Gehäuses in Kontakt komme, folgt die Lokalkammer dem aus den vorgenannten Gründen nicht.

和訳:

特許付与手続中の補正とともにクレーム解釈の補助として参酌されうる出願時のクレームでは、プリント基板上に配置されたチップとアンテナとの直接的な関連が既に確立されていた。そこでは、プリント回路基板上に配置されたチップとアンテナとは互いに離間して配置されるべきである(”…à distance de…”)と明文化されていた。この離間の技術的目的は、干渉を制限することであった。このようにして達成される技術的効果は、特許付与手続き中に行われたクレームの補正により、以下のように明確化された:

「.前記アンテナ(38)は、前記電子チップに離間して前記電子ラベル(3)の前面側のハウジング上またはハウジング内に配置される

クレームの文言によれば、アンテナ及びプリント回路基板は、一定の範囲内で互いに対向して配置され、プリント回路基板は
「ハウジングの背面側でハウジング内に」
アンテナは
「ハウジング上またはハウジング内の電子ラベルの前面側」であり、アンテナはハウジングの上でも中でも配置されうる。
このように、クレームは、空間(ハウジング)におけるこれら2つの構成要素の位置(配置)を記述しており、したがって、間接的に互いの空間的関係を記述している。配置に関連する基準点は、いずれの場合も、電子ラベルのハウジングであり、その側面である。両特徴はこれらに言及している。電子ラベルの前面に割り当てられる部品は、同時にハウジングの背面に割り当てることはできない。むしろ、技術的な理由から必要と考えられるチップとアンテナとの離間から、基準点として選択されたそれぞれの表面への明確な割り当てが可能であり、またそうしなければならないことが導かれる。またクレームの文言及び空間的配置の技術的目的から、アンテナは制限なく、したがって全体として電子ラベルの前面側に配置されるべきである。また、クレームの文言及び空間的配置の技術的目的から、チップは全体としてハウジングの背面側に配置されるべきであることも導かれる。

[…]

イ号においてアンテナが部分的にハウジングの背部の内面に接触していることは重要でないとする原告の見解については 上記の理由により、当地方部は同意しない。

VI. 解説

上記判決の抜粋からもわかるよう、ミュンヘン地方部はクレーム解釈に「特許付与手続中の補正」そして「出願時のクレーム」が参酌可能であることを明言しています。そして特許公報のクレームには無いが出願時のクレームに含まれていた「アンテナと電子チップとが離間している」という特徴も特許公報のクレームの要件として解釈しました。これはドイツそして欧州特許庁では見られないアプローチです。

今後このミュンヘン地方部のアプローチが控訴裁判所によって否定される可能性はあるものの、UPCでは出願当初書面そしてクレーム補正を含む包袋内容もクレーム解釈に参酌されうることを念頭に置く必要がありそうです。

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