欧州ではプロダクトバイプロセスクレームが結構使えます

日本では2015年の最高裁の判決以来、無効理由を包含する恐れのあるプロダクトバイプロセスクレームは避けられる傾向にあります。このため日本の出願人が国外で権利を取得する際にもプロダクトバイプロセスクレームが活用されることはあまりありません。

しかし欧州では以下の4つの理由から日本よりもプロダクトバイプロセスクレームが積極的に活用されます。

1.記載要件が緩い

日本でプロダクトバイプロセスクレームの明確性が認められるのは「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情」がある場合です(平成24年(受)1204号、同2658号)。

これに対して欧州でプロダクトバイプロセスクレームの明確性(EPC84条)が認められるのは「物をその組成、構造またはいくつかの他の試験可能なパラメータを参照して十分に特定できる情報が出願書面にない場合」(T150/82)です。

日本では物をその構造等で特定することが出願時に不可能であるか、又はおよそ実際的であることまで求められるのに対し、欧州では物の構造等に関する情報が出願書面にない場合であればプロダクトバイプロセスクレームの明確性が認められます。

例えば出願時に化合物を構造式で特定することが可能であったにもかかわらず、その構造式を明細書中に記載せず、製造方法のみが明細書に記載されている場合、日本ではプロダクトバイプロセスクレームの明確性の要件を満たしませんが、欧州では明確性が認められます。

2.異議、無効理由とならない

日本では明確の欠如(特許法第36条第6項第2号)は無効理由となります。このため仮にプロダクトバイプロセスクレームが特許になったとしても事後的にプロダクトバイプロセスクレームの明確性を理由として無効になる恐れがあります。

一方で欧州では明確性(EPC84条)の欠如は異議理由または無効理由にはなりません(EPC100条、138条)。

このため欧州では一旦審査を通ってしまえば事後的にプロダクトバイプロセスクレームであることを理由に特許が取り消しになることはありません。

3.特許になれば潰れにくい

欧州特許庁のガイドラインによれば製造方法が異なっても結果物が同じである先行技術が存在する場合は、プロダクトバイプロセスクレームの新規性が否定されます(GL F-IV, 4.12)。すなわち物同一説が採用されています。

このためプロダクトバイプロセスクレームが特許になった後であっても異議において製造方法が異なる先行技術文献によってプロダクトバイプロセスクレームの新規性が争われることがあります。

しかし製造方法が異なる先行技術文献を引用する場合、異議申立人はその異なる製造方法の結果物がプロダクトバイプロセスクレームでクレームされている物と同一であることを立証しなければなりません。この立証が非常に困難です。したがって実際には異議部は製造方法が同じである先行技術文献がなければなかなかプロダクトバイプロセスクレームの新規性を否定してくれません。

このためプロダクトバイプロセスクレームは一旦特許になってしまえば、潰すのが難しい特許と言われています。

4.権利範囲があいまいで競合他社にとって脅威

欧州ではイギリスを除いてプロダクトバイプロセスクレームの権利範囲の解釈には原則物同一説が採用されます(知財管理 今更きけないシリーズ:No. 104参照)。このため製造方法が異なっても結果物が同一であればプロダクトバイプロセスクレームの権利範囲に属します。

ところがプロダクトバイプロセスクレームでは物自体が明確にクレームで特定されているわけではないので、どこまでが同一の結果物であるかを判断することが困難です。すなわちある製品が確実にプロダクトバイプロセスクレームの権利範囲外にあるという判断を下すことが困難です。

このため競合他社の観点からプロダクトバイプロセスクレームは抵触しているかしていないのかよくわからない不気味なクレームになります。

まとめ

上述のように欧州では日本のように記載要件が厳しくかつ無効理由を包含しやすいといったデメリットがありません。それだけでなく権利化後は権利が潰れにくく競合他社に対する牽制になるメリットもあります。

このような理由から欧州では中間対応で積極的にプロダクトバイプロセスクレームに書き換えたり、製造方法がメインの発明であっても特許請求の範囲の最後の方にプロダクトバイプロセスクレームもしれっと追加しておいたりと、プロダクトバイプロセスクレームが積極的に活用されます。

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