EU商標に対する異議のフロー

EU商標は欧州連合知的財産庁(European Union Intellectual Property Office、略称:EUIPO)に出願することによって得られます。このEU商標によればコストパフォーマンスよく27ヶ国の加盟国からなる欧州連合で一括で有効な権利を得られるため日本企業によっても積極的に活用されています。しかしEUIPOでは全EU商標出願のうち10%超もの出願に対して異議が申立てられ、日本企業が当事者として関与することも稀ではありません。本記事ではこのEU商標に対する異議の流れを簡単に紹介します。

I. 異議のフロー

II. 各期間の説明

① 異議申立期間

EU商標に対する異議申立期間はEU商標出願公告(出願公開)から3月以内です( EU商標規則46条(1))。このようにEU商標に対する異議は商標登録後ではなく商標登録前の出願段階の一手続であることが特徴的です。

② Admissibility審査期間

当該審査期間内に異議の対象となる商標出願や異議申立人が特定されているかといった方式的要件のみが審査されます(ガイドラインC, 2.4)。一方でこの時点で異議申立ての理由が立証されている必要はありません。つまりEU商標に対する異議申立では書誌的事項のみで異議が申立てることができ、異議理由の立証に必要な証拠等は後に述べるCooling Off期間の終了後に後出しすることができます。

③ Cooling Off期間

Admissibility審査終了すると両当事者に審査結果が送達されます(ガイドラインC, 2.5)。審査の結果、異議がAdmissibileと判断された場合は、両当事者が和解をするための2月のCooling Off期間が設定されます。このCooling Off期間は最大24月まで延長可能です(EU商標委任規則6条(1))。

④ 異議審理期間

Cooling Off期間中に当事者間で和解が成立しなかった場合に初めてEUIPOの異議部による実体的な審理がなされる異議審理期間が開始します。異議審理期間は英語でAdversarial Partと称されます。当該期間が始まるとまず異議申立人がCooling Off期間の終了後2月以内に異議理由を立証するための証拠等を提出します(EU商標委任規則7条(1))。そしてその後2月以内にEU商標出願人が答弁書を提出することができます(EU商標委任規則8条(2))。この異議申立人そしてEU商標出願人のために設けられる2月の書面提出期間は延長可能です(ガイドラインC,7.2.1.2)。この異議申立人とEU商標出願人との意見・反論の応酬サイクルがEUIPOの異議部の裁量に応じて1~3回ほど繰り返されます(通常は1サイクル)。

決定

当事者による最後の答弁書の提出から2~6月後ぐらいにEUIPOの異議部による決定が下されます。EU商標に対する異議では一応異議部が必要と認めた場合には口頭審理が開催される可能性はあるのですが(EU商標規則96条)、実際に口頭審理が開催されることはまずありません。そして決定の通知から2月以内に不服申立て手段としてEUIPOの審判部にAppealを請求することができます(EU商標規則67条、68条)。

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