先日の記事「欧州代理人費用を減らすためにできること 依頼時編」では代理人費用を減らすために依頼時にできることについて列挙してみました。今回はOA対応時にできることを列挙します。
1.補正のサポートを明示する
補正のサポートを明示することは当たり前のことと思われるかもしれませんが、補正案のみが送られ、補正のサポートに関する説明がない指示書か驚くほど多くあります。
欧州特許庁は補正による新規事項の追加に関してはかなり厳格で、さらに補正の根拠に関する説明を義務付けているため(EPC規則137条(4))、補正のサポートに関する説明がないと、当該補正が適切か否かを検討し、応答書面を作成するのに代理人はかなりの時間を要してしまいます。
このため補正案を送る場合は、必ず補正のサポートに関する説明も添付すべきです。
2.補正案のワードデータも送付する
補正案のワードデータがあればそのまま補正書として庁に提出が可能なので、欧州代理人が補正書の作成に要する時間を削減することができます。
欧州では変更履歴着きの補正書を提出することが求められるので(EPC規則134条(4))、補正の変更履歴を残したワードデータを欧州代理人に送ることが好ましいです。
3.記載要件の指摘については深入りしない
欧州特許庁における記載要件は日本の実務と異なるところも多く、欧州特許庁のガイドラインおよび判例に関する十分な知識そして日々の実務経験による肌感覚がなければなかなか適切な対応をすることが困難です。
一方で日本からの指示書では記載要件の指摘に対する主張が詳細に記載されている場合は、仮にその主張が欧州の実務に照らし合わせて適切でなかった場合であっても、欧州代理人は「何で俺が考えた主張を盛り込まなかったんだ!」と言われることを恐れ、なんとかガイドライン等に矛盾しない形で主張を盛り込むことに腐心します。このため、自らゼロから対応を考えるよりもむしろ時間が掛かってしまうことがあります。
このような理由から記載要件に関する対応は欧州代理人に任せたほうが効率的です。
4.進歩性の議論はコンパクトに
少なくとも審査過程では欧州特許庁では進歩性は厳密に課題解決アプローチという手法に基づき判断されます(ガイドライン G-VII, 5)。
この課題解決アプローチに基づく進歩性の主張のために重要になるのは原則として:
1.Closest Prior Art(副文献)に対する差異的特徴は何か?
2.その差異的特徴による技術的効果は何か?
3.その差異的特徴および技術的効果が副文献に開示されているか?
の3点です。
例えば課題自体の困難性等の上記3点以外の論点はあまり欧州ではあまり重視されません。
このため進歩性の主張に関する指示では上記3点をコンパクトに纏めることがコストパフォーマンスの観点から好ましいです。
5.補正案で迷ったら補請求を検討してみる
欧州ではOAの対応で複数の補正案を提出することが認められます(ガイドラインH-III, 3)。このため複数の補正案のうちどれを採用すべきか迷ったり、またはオリジナルのクレームでチャレンジしてみたいけどダメだったときの落としどころとしての補正案が決まっているときなどは補請求を利用することをお勧めします。
ちなみに補請求を提出した場合、補請求を提出しなかった場合と比較して主請求が通りにくくなることを懸念される方が多いですが主請求のロジックに妥当性があれば、問題なく主請求が認められます。
6.クレームが許可されそうな場合には明細書の補正も指示する
欧州では審査官がクレームを許可可能と判断した後に許可可能なクレームに明細書を適合させるという作業があります(ガイドラインC-V, 4.5)。
効率的な権利化を意識している欧州代理人であれば、審査官がクレームを許可するであろうと判断した際には、審査官からの要求がなくとも自発的に明細書を適合します。
しかし全ての欧州代理人が効率的な権利化を意識しているとは限りません。欧州代理人が自発的に明細書を適合しなければ、明細書の適合のみを求めるさらなるOAが発行されてしまいます。
このため例えばOAでクレームの軽微な誤記のみが指摘されたり、OAにおける審査官の提案に従う場合などは、審査官がクレームを許可する可能性が極めて高いのでクレームの補正だけでなく、明細書の適合を指示することをお勧めします。これにより明細書の適合のみを求めるOAの発行を避けることができます。
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