以前の記事「欧州ではプロダクトバイプロセスクレームが結構使えます」でも説明しましたが、欧州特許庁ではプロダクトバイプロセスクレームの記載要件のハードルが比較的低いため、以下のようなクレームが実務上よく用いられます。
Product X obtainable by process Y.
Product X obtained by process Y.
ここで気になるのが、“obtainable by” と “obtained by” とで権利範囲に差があるのかという点です。
日本語にすれば、前者は「方法Yにより得られ得る製品」、後者は「方法Yにより得られた製品」となります。語感だけを見ると、前者の方が広く、後者の方が狭いように思えます。
しかし、この問題については、欧州特許庁、ドイツ、英国で取り扱いが完全に同じではありません。
1. 欧州特許庁:“obtained” と “obtainable” に差はない
欧州特許庁では、product-by-process claim は、製品そのものに向けられたクレームと解釈されます。
欧州特許庁のガイドラインF-IV, 4.12 は、製造方法によって定義された製品クレームについて、当該クレームは「製品それ自体」に向けられたものと解釈されると説明しています。また、同ガイドラインでは、以下のように “obtained” と “obtainable” とでこの考えに差がないことが明示されています。
The claim may for instance take the form “Product X obtainable by process Y”. Irrespective of whether the term “obtainable”, “obtained”, “directly obtained” or an equivalent wording is used in the product-by-process claim, it is still directed to the product per se and confers absolute protection upon the product.
したがって、欧州特許庁においては、“obtained” と “obtainable” の語の違いだけで、特許性判断上のクレーム解釈は変わりません。
2. ドイツ:欧州特許庁に近い
ドイツも、欧州特許庁と同様のアプローチを採用しています。
ドイツでは、プロダクトバイプロセスクレームは、原則として製品クレームであり、製造方法の記載は物としての製品を特定するための手段と理解されてます。重要なのは、製造方法そのものではなく、その製造方法が完成品にどのような物理的又は機能的特徴として反映されているかです。
BGHの Kochgefäß 判決では、プロダクトバイプロセス形式の記載について、実際にその方法で製造された製品に限定されるとは限らないことが示されています。同判決では、クレーム中の製造方法による特定は、製品を特定するためのものであり、実際に当該方法で製造されたものに限定する趣旨ではないと整理されています。
また、BGH Spreizdübel II でも、プロダクトバイプロセスクレームでは、製造方法の記載は製品の特定のためのものであり、当該方法から生じる物理的・機能的特徴が製品特徴になり得ると説明されています。
したがって、ドイツでも、“obtained” と “obtainable” の語の違いだけで権利範囲又は特許性判断が変わるとはいえません。
3. 英国:侵害判断では差が生じ得る
これに対して、英国では注意が必要です。
英国でも、特許性判断、特に新規性判断においては、プロダクトバイプロセスクレームを製品そのものに向けられたクレームとして扱う考え方が見られます。
しかし、侵害判断の場面では、“obtained by” と “obtainable by” の違いが権利範囲に影響し得るとされています。
重要な判決が、Hospira v Genentech です。
同判決では、プロダクトバイプロセスクレームについて、“obtained by” と “obtainable by” は、少なくとも文言上は異なる種類の表現であると整理されています。そして、“obtained by process Y” は、実際に process Y により製造された製品を意味し得る一方、“obtainable by process Y” は、process Y により得られ得る製品を意味し得ると説明されています。
この違いは、侵害判断で重要になります。
たとえば、ある製品が process Y により製造された場合には、“obtained by process Y” の文言に該当し得ます。しかし、第三者が別の process Z により同じ製品を製造した場合、“obtained by process Y” という文言では、侵害を問うことが難しくなる可能性があります。
これに対して、“obtainable by process Y” であれば、実際に process Y により製造されたかどうかではなく、process Y により得られ得る製品であるかどうかが問題となります。そのため、侵害判断上は、“obtainable by” の方が “obtained by” よりも広く機能し得ます。
4. まとめ
プロダクトバイプロセスクレーム における “obtained” と “obtainable” の違いは、EPOだけを見ていると見落とされがちです。
欧州特許庁そしてドイツでは、プロダクトバイプロセスクレーム における “obtained” と “obtainable” との違いだけで権利範囲や特許性判断に差は生じません。
これに対し、英国では、侵害判断の場面で “obtained by” と “obtainable by” の違いが意味を持ち得ます。特に “obtained by” は、実際にその方法で製造された製品に限定される可能性があるため、英国での権利行使を想定する場合には注意が必要です。
