かつて欧州特許実務で「Poisonous Divisional(毒入り分割)」という問題が話題になりました。
簡単に説明すると、以下のように基礎出願に開示された具体的な発明を、後願で上位概念化した結果、優先権が失効し、新規性を喪失してしまうという問題です。
出典:鳥山明先生「ドラゴンボール」(集英社)
この問題は、2016年のEPO拡大審判部決定G 1/15によって、部分優先が広く認められるようになったことで、基本的に解決されたと考えられています(過去の記事「Poisonous Divisionalは解毒された?」および「Poisonous Divisionalは解毒された?続報」をご参照ください)。
しかしこの毒入り分割の問題がドイツでは復活の兆しを見せています。今回はドイツ連邦最高裁判所(BGH)がドイツにおける毒入り分割の問題の復活の兆しを示した判決X ZR 71/24を紹介します。
背景
本件欧州特許(EP 2 078 113)は、ドイツ実用新案出願(2006年11月7日)を基礎として、2007年11月7日に出願されました。基礎出願には、作業装置とハウジングの回転軸が一致する「同軸(koaxial)」構成が開示されていました。一方、欧州特許のクレームでは、両者の回転軸が「平行(parallel)」であることが規定されていました。
つまり、欧州特許のクレームは、基礎出願に開示された同軸構成だけでなく、同軸ではない平行構成まで包含していました。なお、優先権基礎出願である実用新案出願は、欧州特許出願前の2007年10月11日登録され欧州特許出願前に公開されていました。
論点
欧州特許のクレーム全体について優先権が認められないとしても、基礎出願に開示された「同軸構成」について部分優先が認められるか?
BGHの結論
基礎出願に開示された「同軸構成」についても部分優先は認められない。欧州特許は優先権を享受できず、出願前に公開された基礎出願が先行技術となりクレーム1の対象は新規性が無い。
判決文の抜粋
BGH X ZR 71/24、理由42-44
dd) Schließlich führt auch der erstmals in der mündlichen Verhandlung vor dem Senat erfolgte Hinweis der Beklagten auf die Rechtsprechung der Beschwerdekammern zur Inanspruchnahme von Teilprioritäten (EPA, Große Beschwerdekammer, Entscheidung vom 29. November 2016 – G 1/15, Mitt. 2017, 113 – Partial Priority) nicht zu einem anderen Ergebnis.
Danach kommt die Inanspruchnahme einer Teilpriorität in Betracht, wenn der Anspruch der Nachanmeldung mehrere alternative Gegenstände umfasst und eine dieser Alternativen von der Voranmeldung offenbart wird (Benkard/Grabinski, EPÜ, 4. Aufl., Art. 88 Rn. 15).
Diese Voraussetzung liegt hier nicht vor. Patentanspruch 1 umfasst keine Alternativen, sondern sieht nur die parallele Anordnung der Drehachsen von Gehäuse und Arbeitsgerät vor. Dass auch eine koaxiale Anordnung von diesem Anspruch umfasst ist, rechtfertigt keine abweichende Beurteilung.
和訳:
dd) 最後に、被告が当法廷における口頭審理で初めて言及した、部分優先権の主張に関するEPO審判部の審決(EPO拡大審判部、2016年11月29日決定 G 1/15、Mitt. 2017, 113 – Partial Priority)も、異なる結論を導くものではない。
この審決によれば、後願の請求項が複数の選択的な対象を包含し、その選択肢の一つが先願に開示されている場合には、部分優先権の主張が認められ得る(Benkard/Grabinski, EPÜ, 第4版、Art. 88、欄外番号15)。
本件では、この要件は満たされていない。請求項1は複数の選択肢を包含するものではなく、ハウジングと作業装置の回転軸が平行に配置されることのみを規定している。同軸配置も当該請求項に包含されるという事実は、これと異なる判断を正当化するものではない。
解説
「Poisonous Divisionalは解毒された?続報」でも説明したようにG 1/15によれば、クレームが上位概念によって規定されていても、基礎出願に直接かつ一義的に開示された技術的対象については、部分優先を認められます。ここで後の出願のクレームが基礎出願の開示内容を選択肢として含んでいることは部分優先を認める要件とはなっていません。
今回の事案では、同軸構成が基礎出願に開示されており、その同軸構成が後願の平行構成という上位概念に包含されています。したがって、G 1/15の判断基準に従えば、少なくとも同軸構成について部分優先が認められるはずです。
ところがBGHは、クレームが複数の選択肢を包含しないことを理由に部分優先を否定しました。これは明らかにG 1/15の判断基準とは異なります。
つまりこの事件は欧州特許庁では問題とならなかった部分優先そして毒入り分割がドイツで有効化後に問題となり得ることを示唆します。このため欧州特許をドイツで有効化することを検討されている場合は欧州特許庁における権利化段階でこの部分優先のトラップに陥らないように注意することをお勧めします。


