国際段階または欧州移行時の特許性を考慮した補正はお勧めしません

PCT出願をした場合、日本特許庁による国際調査報告の結果を参照して国際段階または各国移行時に特許性(新規性および進歩性)を考慮した補正が検討される場合は多いと思います。しかしPCT出願を欧州特許庁に移行する予定がある場合は、以下の4つの理由から特許性を考慮した国際段階または移行時の補正はお勧めできません。

1.日本特許庁による国際調査の結果があまり参照されない

 欧州特許庁は日本の特許庁が国際調査機関であっても移行後は通常の調査を行います。また欧州特許庁は調査の際に日本特許庁の調査報告をあまり参照していないと思います。欧州特許庁による調査報告では日本特許庁が国際調査で引用したX文献(新規性を否定する文献)またはY文献(進歩性を否定する文献)が全く引用されないことが多々あるからです。また日本特許庁が国際調査で特許性を認めたケースであっても、7割以上の確率で欧州特許庁によって新たなX文献またはY文献が引用されます。このため日本特許庁による国際調査を参照して特許性を確保する補正をしても無駄になることが多いです。

2.新規事項の追加と判断される

 また欧州特許庁は日本特許庁よりも補正による新規事項の追加に厳しいため、国際段階で日本の実務感覚で行った補正が新規事項の追加と判断されるリスクも無視できません。

3.補正によって柔軟な権利化が制限される

 ここまで読んで頂いて「移行段階で追加した特徴が欧州特許庁の調査報告で無駄だと分ったら、その特徴を削除すれば良いじゃない」と思われる方もいるかと思います。しかし既に調査が終了した独立クレームから特徴を削除する補正は、未調査の発明への補正を禁止するEPC137条(5)に抵触するとして認めらないことが多いです。このため無駄な特徴をいれたまま審査を継続せざるを得ず、柔軟な権利化が制限されてしまいます。

4.欧州代理人費用も嵩む

 国際段階または移行時に補正をした場合はどうしても準備書類の量が増え、そしてその分欧州代理人の作業量も増えてしまいます。このため補正をしたが故に別途費用が請求されてしまう場合があります。

まとめ

 このように特許性を考慮したPCT出願の国際段階または欧州移行時での補正は無駄になるだけではなく、柔軟な権利化を制限したり、追加で費用を発生させたりする恐れがあります。このため特許性を考慮した国際段階または欧州移行時での補正はお勧めしません。どうしても補正をしたいということであれば独立クレームはいじらず、従属クレームを追加する程度に抑えることをお勧めします。

一方で移行時にクレームの数を15以下に減らしたり、各特長の後に附番を付したり、1カテゴリー1独立クレームにしたりと欧州での形式面を考慮した補正は費用を削減したり、その後の権利化をスムーズにするのでお勧めできます。

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