欧州では図面に基づく補正はお勧めできません

以前の記事「日本の実務家がしがちな欧州での危険な補正の形態4つ」ではクレームおよび明細書の文言開示に基づかず図面のみに基づく補正は欧州特許庁では新規事項追加を指摘されるリスクが高いと説明しました。

今回は図面のみに基づく補正が新規事項を追加すると判断された欧州特許庁の判例T 191/93を紹介します。

I. 背景

出願時のクレーム1:

-受圧部(10、11)と、
-第1および第2受圧室(14、15)を形成する2つの受圧ダイアフラムと、・・・
-前記受圧部に第1および第2補償室(17、18)を形成する補償ダイアフラム(16)と、
・・・を具備・・・する半導体差圧発信機。

明細書:

補償室(17、18)の位置に関する記載は無い。

図1:

補正後のクレーム1:

-受圧部(10、11)と、
-第1および第2受圧室(14、15)を形成する2つの受圧ダイアフラムと、・・・
-前記受圧部に第1および第2補償室(17、18)を形成する補償ダイアフラム(16)と、・・・を具備し、
前記補償室(17、18)は、前記第2受圧室(15)よりも遥かに前記第1受圧室(14)の近傍に配置される、・・・ことを特徴とする半導体差圧発信機。

II. 論点

補償室(17、18)が第2受圧室(15)よりも第1受圧室(14)の近傍に配置されるという明細書の記載からは読み取れないが、図1から読み取れる特徴をクレーム1に追加する補正は許されるか?

III. 欧州特許庁の審判部の決定

当該特徴を追加した補正後のクレーム1は出願内容を超えるので、当該補正は許されない。

IV. 決定の理由の抜粋

Indeed, the introduced particular features (h1) and (h2) are selected among other features of the original drawings; however, this selection of features is arbitrary in the sense that it is not directly derivable from the original application that (h1) and (h2) can be isolated from said other features shown in the drawings […].
(和訳)確かに導入された特定の特徴(h1)及び(h2)は、元の図面の他の特徴の中から選択されるが、この特徴の選択は、(h1)及び(h2)が図面に示された前記他の特徴から分離され得るという原出願から直接導き出されない意味で任意である[…]。

V. 解説

当該判例では複数の特徴が一体不可分に開示された図面から一部の特徴のみを抽出し、その特徴をクレームに追加することは新規事項の追加に該当すると判断されています。この考えは先日の記事「欧州では一部の特徴のみを抽出する補正は新規事項追加と判断されることがあります」で紹介した中間一般化を禁止する考えと同じです。

一般的に図面は複数の特徴の組合せを開示しているので、図面に基づく補正は通常この中間一般化が禁止される理由で難しいです。

また図面に基づく補正が論点となった別の判例T 1120/05では審判部は「一般的にEPC123条(2)の内容を鑑みると、出願当初の図面は、出願人または特許権者がクレーム補正を作成するための構成要件のストックとみなすことはできない」と図面に基づく補正は原則許されないと言い切っています。

さらにこのような図面に基づく補正は異議で特許の取消しが確実になる「Inescapable Trap」に陥りやすいです。

このため欧州特許庁の権利化過程では図面に基づく補正はしない、または仮に図面に基づく補正が必要となった場合は欧州代理人の意見を聞きながら細心の注意を払って導入する文言を選定することをお勧めします。

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