以前の記事「ソフトウェア関連発明がEPOで越えなければならない2つのハードル」で説明したように欧州特許庁では技術的性格を有する特徴のみが進歩性に考慮され、非技術的特徴は無視されます。この考えはコンピュータによってなされるシミュレーションに関連する発明にも適用されます。
欧州特許庁の2021年版のガイドラインにおけるG-II, 3.3.2「シミュレーション、設計またはモデリング」では、T 1227/05を参照して、特定の技術プロセスの挙動のシミュレーションは、物理的な製品の製造工程を含まなくとも、技術的性格を有するとしていました。
つまり2021年版のガイドラインによれば特定の技術プロセスの挙動のシミュレーション(例:1/fノイズの影響を受ける電子回路の性能又は特定の工業的化学プロセスの数値シミュレーショ ン)に関する発明であれば、クレームが物理的な製品の製造工程を含まなくとも進歩性が肯定され得ることになります。
しかし2021年になされた拡大審判部の判決G1/19では、T 1227/05を完全には否定しなかったものの、T 1227/05の結論はあくまで例外的なものであり一般的に適用できるものでは無いとしました(G1/91 段落128)。このG1/19により2022年版のガイドラインではT 1227/05を参照した箇所が削除されました。
つまりG1/19前であれば欧州特許庁により技術的性格および特許性が認められていたシミュレーションの発明が、G1/19後は技術的性格が無いとして進歩性が否定され得ることになります。
しかしこれは今後欧州特許庁でシミュレーション発明の権利化が不可能になることを意味するものではありません。今後もクレームの記載方法に気を付ければ、シミュレーション発明に技術的性格を付与し、進歩性を確保することは可能です。
では今後欧州特許庁で特許性が認められるためには、シミュレーション発明のクレームを具体的にどのように記載すればよいのでしょうか?
この具体的なクレームの記載方法は5月18日に開催される弊所の欧州知財ウェビナー「G1/19後のシミュレーション関連発明の実務」で紹介したいと思います。
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