欧州特許庁における異議の概要

欧州特許庁における異議の概要をまとめてみました。

手続き

欧州特許庁における異議は日本と異なり異議申立人と特許権者とが対立する当事者系の手続きとなります。つまり異議申立人と特許権者との間で議論がなされ、そして欧州特許庁の異議部が最終決定を下します。

異議部の構成

異議部は3人の技術資格審査官で構成されます(EPC19条)。また異議の対象である特許の審査過程に関与した審査官が異議部の構成員になることが許されています(ガイドライン D-II, 2.1)。

審理方式

書面審理と口頭審理との組合せです。まず異議申立人および特許権者が提出した書面に基づいて審理が進められ、そして口頭審理で異議部による最終決定が下されます(EPC100条、EPC規則79条、EPC116条)。

申立人適格

何人も異議を申し立てることができます(EPC99条)。ただし匿名で申立てることはできません。

自らの名前を伏せたい場合は、代理人名義や名義貸し専門会社であるStrawman社(http://www.strawman.info/offer.htm)名義などで異議が申立てられます。

申立期間

特許登録公報発行の日から9月以内です(EPC99条)。この期間内であれば特許権消滅後であっても異議を申し立てることができます(EPC規則75条)。

異議理由

以下の(a)~(c)の3つの理由に基づいて異議を申し立てることが出来ます(EPC100条):
 (a) 特許の対象が第52条から第57条までの規定に基づいて特許を受けることができないこと (新規性、進歩性等の欠如)
 (b) 特許が発明を当該技術の当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に開示していないこと (実施可能要件違反)
 (c) 特許の対象が出願時の開示範囲を超えていること (新規事項の導入)

一方でクレームの明確性(EPC84条)は異議理由ではありません。ただし異議中にクレームに含まれない明細書からの特徴をクレームに追加する補正をした場合は補正後のクレームについては明確性も審理の対象となります(G3/14)。

庁費用

785ユーロです(費用に関する規則2条)。

代理人費用

代理人費用は提出される書面の量によって大きく変動しますが、異議申立から口頭審理での決定まででおおよそ1万~4万ユーロの範囲内に収まるかと思います。

審理期間

2018年の欧州特許庁による年次報告によれば異議申立期間終了から口頭審理での決定までの期間は平均で18.6月です。

審理の促進

異議の対象である特許に関する侵害訴訟が係属中の場合は申請により異議の審理を促進させることができます(OJ2008,221; ガイドライン E-VII, 4)。

申立の取下げ

異議の申立ては取り下げることが可能です。ただし異議部は申立てが取り下げられた後も職権で審理を続行することができます(EPC規則84条(2))。

決定

異議部による決定には以下の3種類があります(EPC101条)。
 (1)維持決定 (特許が査定されたままの状態で維持)
 (2)補正された形での維持決定 (特許が異議における補正によって減縮された状態で維持)
 (3)取消決定 (特許の完全な取消)

不服申立

異議部の決定によって不利な影響を受けた当事者は、審判部(Board of Appeal)に不服を申し立てることができます(EPC107条)。

例えば維持決定の場合は、特許権者はなんら不利な影響を受けおらず異議申立人のみが不利な影響を受けたので異議申立人のみが審判(Appeal)を請求することができます。

一方、取消決定の場合は、異議申立人ははなんら不利な影響を受けおらず特許権者のみが不利な影響を受けたので特許権者のみが審判を請求することができます。

補正された形での維持決定の場合は、特許権者および異議申立人の両方が審判を請求することができます。

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