欧州特許庁の進歩性判断手法であるProblem Solution Approachではクレームされた特徴の効果が重視されます(過去の記事「Problem Solution Approachの3つのステップ」をご参照ください)。したがって欧州向けの明細書では個々の特徴の効果を明記することが重要であることを把握されている方は多いかと思います。
この効果の明記ですが通常は1つの特徴について1つの効果を記載するのに留まると思います。しかしProblem Solution Approachを考慮すると1つの特徴に対して2以上の異質な効果を明記しておくとより進歩性が主張しやすくなります。この1つの特徴に対して2以上の異質な効果を割り当てることを私個人的に「効果の水平展開」と呼んでいます。
以下に2つの例を用いてなぜこの「効果の水平展開」が進歩性の確立に有利なのかを説明します。
例1:効果が1つ
クレーム: A+B+C+Dを有する発光ダイオード。
明細書: Dという特徴により消費電力が減少する。
Closest Prior Art: A+B+Cを有する発光ダイオード。
客観的技術的課題: 消費電力が少ない発光ダイオードを提供すること
副文献: 「ダイオードにDを追加すれば消費電力が減少するので好ましい 」
↓
進歩性無し
例1:効果が2つ
クレーム: A+B+C+Dを有する発光ダイオード。
明細書: Dという特徴により消費電力が減少だけでなく、寿命も延びる。
Closest Prior Art: A+B+Cを有する発光ダイオード。
客観的技術的課題: 寿命が長い発光ダイオードを提供すること
副文献: 「ダイオードにDを追加すれば消費電力が減少するので好ましい 」
↓
進歩性有り
解説
上記の例1のように差異的特徴のDの効果が「消費電力が少ない」のみの場合は、「消費電力を下げる」という課題の解決が自明である場合、進歩性を確立できません。
一方で上記の例2のように差異的特徴のDについて「消費電力が少ない」以外に「寿命も延びる」という効果が明記されている場合は、仮に「消費電力を下げる」という課題の解決が自明であった場合であってもまだ「寿命を延ばす」という課題に基づいて進歩性を確立することができます。
このように明細書において効果を水平展開しておけば、より進歩性を主張しやすい効果を選択することができ進歩性を確立しやすくなります(例えばT 1356/21参照)。