UPCへのOpt Inは簡単にブロックできる?

以前の記事「欧州単一特許制度についてよくあるQ&A」で説明したように、欧州特許に関する管轄権を統一特許裁判所(UPC)からOpt Outした後であっても、UPC協定83条(4)の規定により訴訟が国内裁判所に提起されていない限り(unless an action has already been brought before a national court)、Opt Inにより管轄権を統一特許裁判所に戻すことができます。
ここでUPC協定83条(4)の規定における「訴訟(action)」には、特許権者自身が提起する特許権侵害訴訟だけでなく、第三者が提起する無効訴訟も含まれます。

つまり第三者はOpt Outがなされた欧州特許についていずれかの国内裁判所に無効訴訟を提起することでOpt Inをブロックすることができます。

ここで「無効訴訟を提起」というと仰々しく聞こえるかもしれませんが、UPC協定83条(4)の規定では訴訟のその後の運命について何ら要求していません。つまり無効訴訟が提起されたという事実があれば、仮に無効訴訟がその後敗訴や取下げで終了した場合であっても Opt Inをブロックする効果には影響を及ぼしません。

したがって例えばOpt Outされた欧州特許についてドイツ連邦特許裁判所に必要最小限に抑えた数段落程度の無効訴訟の訴状を提出し、最低限の裁判所費用さえ支払えば、 UPC協定83条(4) で規定する 訴訟を提起したことになり、その欧州特許のOpt Inをブロックすることができます。

このようにOpt Outされた欧州特許のOpt Inは簡単にブロックされ得ます。

したがって欧州特許の特許権者は、将来統一特許裁判所で権利行使をするオプションを保持したい場合は安易にOpt Outを選択すべきではありません。また ある欧州特許について 競合他社が統一特許裁判所で権利行使をすることを防ぎたい第三者は、その欧州特許についてOpt Outがされている場合は、Opt Inをブロックすべく積極的に各国裁判所で訴訟を提起することを検討すべきです。

謝辞
本記事は知財専門ドイツ弁護士の眞峯伸哉先生によるアドバイスを頂戴し作成しました。眞峯先生、貴重なアドバイスを誠にありがとうございます。

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