日本では抗体発明に関する特許出願をした場合、審査過程で6つのCDR配列および場合によってはフレームワークもクレームで特定することが通常求められます。このため例えば「抗原Xに対する抗体」というふうに抗体の構造を特定することなく抗体の機能だけの特定で特許を取得することは最近では難しいと言われています。
しかし欧州特許庁では、抗原が未知であるか、または抗原が既知であっても機能が未知であるような場合には比較的容易に機能のみで特定で抗体発明について特許を取得できます。
例えば欧州特許庁の審判部による判決T 0542/95では以下の通り抗体の機能のみの特定で特許性が認められています。
A monoclonal antibody which specifically recognizes and binds a cytotoxin having M.W. of 17,000 ± 500 D as determined by polyacrylamide SDS gel electrophoresis.
和訳:
ポリアクリルアミドSDSゲル電気泳動により決定された17,000±500DのM.W.を有するサイトトキシンを特異的に認識し結合するモノクローナル抗体。
本判決では抗原である17,000±500DのM.W.を有するサイトトキシンを開示する先行技術文献が無かったことから抗体発明の新規性および進歩性が認められています。
機能(抗原)のみで特定した抗体発明の特許性と、抗原および抗体の既知/未知との関係は簡単にまとめると以下のようになります。
・抗原が未知+抗原に対する抗体が未知
・新規性:有り
・進歩性:有り(例:T 0542/95)
・抗原が既知+抗原に対する抗体が未知
・新規性:有り
・進歩性:抗体を得ることが難しかったり、予期しない効果がある場合にのみ有り(例:T0187/04)
・抗原が既知+抗原に対する抗体が既知
・新規性:無し
・ただし用途が新規である場合は、使用クレームまたは医薬用途クレームにすることで新規性および進歩性が認められうる(例:EP1537878B1)
このように欧州特許庁では機能のみで特定した抗体発明の特許性が比較的認められやすいです。このため欧州特許庁における抗体発明の権利化では安易にクレームに構造的特徴を追加するのではなく、まずは機能的特徴だけでチャレンジしてみることをお勧めします。
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