口頭審理 ノンネイティブの戦略

 欧州特許弁理士になってから補助者としてではなく担当者として口頭審理を任されることが増えました。しかしながらドイツ語も英語もネイティブではない私にとっては口頭審理においてまともに戦ったのでは明らかに不利です。このため語学面の弱点をカバーし少しでも口頭審理を有利に進めることができるよう自分なりに工夫しています。

 以下に私が特に対立当事者が存在する異議申立における口頭審理を進める上で工夫している6点を紹介します。

1.準備する

 語学面の弱点をカバーするための王道であると思います。口頭審理の前には必ずこれまでの異議過程で提出された全ての書面に目を通し、頭の中で整理しておきます。また事前に論点になりそうな判決およびガイドラインの該当箇所について予習をしておき、実際に口頭審理で意見を求められた際にすぐに対応できるように準備しておきます。

 一方、スピーチ用の原稿は準備しません。一度準備したことがあったのですが、あまりにも想定外の方向に話が進み準備した原稿がほとんど使えなかったこと、また原稿を準備した場合、原稿の内容に囚われてしまい柔軟な論理展開ができないことから原稿を準備することを辞めました。

2.お行儀よくする

 口頭審理中は異議部を味方につけたいので異議部に対する印象を最大限に良くするためにお行儀よくふるまうことを意識します。具体的には異議部に断わりなく発言したり、対立当事者を不当に挑発するような言動も避けます。また異議部の部長(Chairman)に話しかける際には「Mr Chairman」または「Madam Chairman」との敬称を用いることで心なしかChairmanの機嫌が良くなる気がします。

3.主張は法律、ガイドライン、技術的事実に基づき端的に

 実際に論点に対して意見を述べる際に、余計なことを言わず法律、ガイドライン、技術的事実に基づき端的に分かりやすく説明するを心がけています。よく口頭審理でガイドラインまたは判例に基づかない哲学的また法学的主張を展開する弁理士がいるのですが、私の個人的な印象では異議部はそんな主張にはうんざりとしている場合が多いように思います。このため異議部の印象をよくするためにも主張は重要箇所のみを端的に纏めるようにしています。

 また余計なことを言わないことで知らず知らずに自らにとって不利になる発言をするリスクを抑えることができます。

4.絵を使う

 口頭審理はその名の通り通常口頭のみで進められるのですが、部屋にあるホワイトボードを使うことが許されています。このため異議部が私の主張を理解していないなと感じた際、または複雑な事項を説明する際には積極的にホワイトボートを利用し絵を交えながら説明します。絵を交えることの効果は絶大で、口頭のみであれば仮に流暢で完璧な英語・ドイツ語で説明したとしても分かりにくいことが、ブロークンな英語・ドイツ語であっても明確に伝えることができます。

5.質問する

 どうしても相手側の主張または異議部の意見で分からないことがあれば質問します。この質問することには3つのメリットがあります。1つ目のメリットは不明点を明確にできること、2つ目のメリットは自らの論理を再構築するための時間を稼ぐことができること、そして3つ目のメリットは気持ち相手側のペースを乱すことができることです。

6.食らいつく

 そして一番大切にしているのが異議部に自分の考えが伝わるまで決してあきらめないことです。自分の考えを全て伝えきってそれでも負けたということであれば納得もできますが、私にとって最悪のシナリオが自分の語学力の不足により自分の考えが異議部に伝わらず、それが原因で負けるということです。

 このためジェスチャーでも絵でも使えるものはなんでも活用して自らの考えが通じるまでは新宿鮫のように食らいついて離さないといことを心がけています。

まとめ

 上記6点を心がければノンネイティブであっても口頭審理で十分に戦うことができると思います。しかしながらやはり流暢な英語・ドイツ語を話せることに越したことはないので、引き続き英語・ドイツ語のレトリックを向上させたいと思います。

 異議の口頭審理の前日は未だに眠れなくなるほど緊張しますが、全力を尽くし良い結果で口頭審理を終え、お客様に喜んでもらえたときは弁理士をやっていて本当良かったと思える瞬間の一つです。以前の記事にも書きましたが口頭審理が強い弁理士は私が目指したい弁理士像の一つなので今後もこの分野のスキルを磨いていきたいです。

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