欧州特許庁での進歩性はProblem Solution Approachという手法に基づいて判断されます(Problem Solution Approachって何?という方は過去の記事「Problem Solution Approachの3つのステップ」をご参照ください)。
このProblem Solution Approachに基づく進歩性の議論についてよくある質問とその回答をまとめてみました。
Q. 審査官がclosest prior art(主文献)として認定したD1よりもD2のほうがclosest prior artとして適切という主張は有効ですか?
A. はい。例えば本願発明の目的がD1のそれよりもD2のそれの方が近い場合などは有効です。
Q. 審査官がD1およびD2の文献両方がclosest prior artであると主張してきました。複数の文献をclosest prior artとしてもよいのですか?
A. はい。複数の文献のそれぞれが平等にclosest prior artとして適している場合は複数の文献のそれぞれがclosest prior artとして採用されます(ガイドライン G-VII, 5.1)。
Q. 審査官が引用した文献が全てclosest prior artとして適切でない気がします。 closest prior artに適した文献がないので進歩性があるという主張は有効ですか?
A. いいえ。仮に本願発明と同様の目的に関する文献がなかったとしてもいずれかの文献をclosest prior artとして進歩性を議論しなければなりません(T 698/10)。
Q. とはいっても審査官が引用した文献のいずれかをclosest prior artとすることにはかなり無理があると思います。こういった場合はどうしたらよいですか?
A. この場合私個人的には本願明細書で先行技術として引用した文献をclosest prior artとして進歩性を議論します。
Q. 発明の課題が新規という主張は有効ですか?
A. いいえ。Problem Solution Approachでは客観的技術的課題が強制的に設定されるので発明者が認識した課題の新規性を主張する余地がありません。したがって課題が新規である主張は残念ながら有効ではありません。過去の記事「EPOにおける進歩性の議論では「課題が新規」という主張は効果がありません」をご参照ください。
Q. 想定外の文献がclosest prior artとして認定されたためclosest prior artに対して有利な効果を示すデータがありません。こういった場合どうしたらよいですか?
A. 追加実験データを提出する、または想定外の文献ではなく有利な効果の主張をしやすい想定内の文献がclosest prior artであると主張することが対応案として考えられます。
Q. 実験データの追加はどんな場合でも認められますか?
A. いいえ。実験データの追加が認められるのはその実験データがサポートしようとする効果が得られることが少なくとも信頼できるよう(plausible)に出願当初書面に開示されている場合のみです。過去の記事「欧州では実験データの後出しが認められます」をご参照ください。
Q. 追加実験では副文献との対比実験も必要ですか?
A. いいえ。進歩性の議論で重要なのはclosest prior art(主文献)に対する効果です(T 20/81)。したがって副文献との対比データは必要ありません。
Q. 客観的課題が単なる代替物の提供と認定されてしまったら進歩性は認められませんか?
A. いいえ。客観的課題が単なる代替物の提供と認定されても例えば阻害要因があれば進歩性が認められることがあります(T 0092/92、T 0588/93、T 0943/13、T 0495/91)。
Q. 発明に想到するには3つの文献を組合せなければならない場合、進歩性はありますか?
A. はい。この場合一般的に進歩性はあると判断されます(ガイドライン G-VII, 6)。
Q. 欧州代理人向け指示書にどんな情報があれば進歩性の議論に役立ちますか?
A. closest prior artに対する差異的特徴、差異的特徴による効果そして必要に応じて追加実験データです。
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