EPOにおける進歩性の議論では「課題が新規」という主張は効果がありません

日本では課題が新規であり当業者が通常は着想しないようなものである場合は進歩性を肯定する材料として考慮されます(審査基準 第III部 第2章 第2節 3.3)。このため日本では進歩性の議論の際に課題が新規であることを主張することがよくあります。

一方で欧州特許庁では進歩性の判断はProblem Solution Approach(課題解決アプローチ)といわれるアプローチに基づいて厳密に判断されます(「Problem Solution Approach」って何?という方は過去の記事「Problem Solution Approachの3つのステップ」をご参照下さい)。このProblem Solution Approachでは客観的な技術的課題が強制的に認定されてしまいます。このため発明者が主観的に認識していた課題が新規であるか否かの検討がなされる余地がありません。したがって欧州特許庁では進歩性の議論において「課題が新規である」という主張の効果は期待できません。

ここまで読んで「欧州にもProblem Inventionと呼ばれる課題の新規性に進歩性が認められた例があるじゃないか!」と思われる方がいると思います。

確かに課題の解決手段が容易であっても今まで認識されていなかった新規な課題を認識した発明はProblem Inventionと呼ばれ、Problem Solution Approachとは別の考えで課題設定の困難性に進歩性が認められることがあります(例:T 2/83、T 225/84、T 135/94、T 540/93、T 1236/03、T 764/12、T 1201/13、T 2321/15)。

またProblem Inventionの進歩性については元々は欧州特許庁のガイドラインにも明記されていました。

しかしながらProblem Inventionの進歩性に関する項目は2010年にガイドラインから削除されました。また2009年までのガイドラインではProblem Solution Approachは進歩性判断手法の単なる一例としての地位しかありませんでしたが、2010年以降のガイドラインではProblem Solution Approachが唯一の進歩性判断アプローチとして位置付けられています。

ガイドラインは欧州特許庁の審査部および異議部を拘束するのでProblem Solution Approachとの親和性が悪いProblem Inventionの進歩性が審査部および異議部で認められることはまず無いと思われます。

したがって仮に発明がProblem Inventionに該当する場合であっても、審査部および異議部における進歩性の議論では「課題が新規である」という主張の効果は期待できません。

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