何故EPOは新サービス「Top-up search for earlier national rights」を導入したか?

2022年9月1日から欧州特許庁はEPC規則71条(3)に基づく特許付与予定通知の際にEPC加盟国における先願後公開国内出願(いわゆる日本特許法29の2の「先の出願」)に関する調査結果(Top-up search for earlier national rights)を提供するサービスを開始しました。

しかしならが欧州特許庁における審査過程では先願後公開欧州特許出願は先行技術のとなっても、各EPC加盟国における先願後公開国内出願は先行技術となりません(EPC54条(3))。つまり例えば欧州特許出願でクレームされた発明を開示する他の先願後公開欧州特許出願が存在する場合は、その発明の新規性が欧州特許庁によって否定されますが、欧州特許出願でクレームされた発明を開示する他の先願後公開ドイツ特許出願が存在してもなんら欧州特許庁における審査には影響しません。

このため欧州特許庁が開始した先願後公開国内出願に関する調査結果を提供するサービスには意味が無いようにも思えます。また審査段階の初期ならともなく審査が実質的に終了したEPC規則71条(3)に基づく特許付与予定通知の際にこの調査結果が通知されることも不可解です。したがって何故欧州特許庁がこのようなサービスを導入したのか疑問に思われた方も多いと思います。

このサービス導入の理由は今年の6月1日に開始が予定されている欧州単一特許制度に関連します。

上述のように先願後公開国内出願は欧州特許庁における審査の段階では影響がありませんが、特許付与後の無効訴訟の際に先行技術となり得ます(EPC139条(2))。そして欧州単一効特許を選択した場合は、その欧州単一効特許が1国の先願後公開国内出願によって統一特許裁判所の無効訴訟において無効となってしまうリスクが発生します(詳しくは過去の記事「欧州単一効特許と国内先願後公開出願との関係」をご参照ください)。

つまりクリティカルな先願後公開国内出願が存在する場合は、欧州単一効特許を選択せず、従来のように欧州特許の有効化を選択し、例えばその先願後公開国内出願が存在する国を有効化する国から除いたり、その先願後公開国内出願が存在する国のみでクレームを減縮したりすることが好ましいです。

しかしこの欧州単一効特許を選択すべきかそれとも従来のように欧州特許の有効化を選択すべきかの意思決定はEPC加盟国においてクリティカルな先願後公開国内出願が存在するか否かの情報がなければ適切に下すことができません。

そこで欧州特許庁は出願人がこの意思決定を適切に下すことができるよう審査の終盤で先願後公開国内出願の調査結果を提供することとしました。

つまり当該サービス導入の理由は、出願人による欧州単一効特許を選択すべきかそれとも従来のように欧州特許の有効化を選択すべきかの意思決定をサポートするためです。

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