Opt Outをしたからといって各国の国内法が適用されるとは限りません

UPC協定の発効までのロードマップが公開され、日本でも欧州単一特許制度に関する議論が盛んになっています。その議論の中で最も検討されているのがどの欧州特許についてOpt Outを申請すべきか否かということだと思います(Opt Outって何と言う方は過去の記事「欧州単一特許制度についてよくあるQ&A」をご参照ください)。

Opt Outのメリットとして挙げられるのが各国の国内法の適用です。

つまり「統一特許裁判所に裁判を提起するとUPC協定が適用されて判断が下されるが、UPC協定の解釈についてはまだ不明なことが多い。しかしOpt Outすることで判例の蓄積が多く予見性の高い各国の国内法を適用した各国裁判所による判断が得られる」ということがOpt Outのメリットとして謳われています。

しかしOpt Outがされた場合に果たして各国裁判所が本当に各国の国内法を適用できるかは実はまだ公式に決定していません。

まずUPC協定3条(c)では、以下のようにUPC協定は従来の欧州特許にも適用されるとしています。

ARTICLE 3 Scope of application
This Agreement shall apply to any:
(a) European patent with unitary effect;
(b) supplementary protection certificate issued for a product protected by a patent;
(c) European patent which has not yet lapsed at the date of entry into force of this Agreement or was granted after that date, without prejudice to Article 83

またOpt Outを規定するUPC協定83条(3)は以下のように裁判所の管轄権についてのみ規定しています。

Unless an action has already been brought before the Court, a proprietor of or an applicant for a European patent granted or applied for prior to the end of the transitional period under paragraph 1 and, where applicable, paragraph 5, as well as a holder of a supplementary protection certificate issued for a product protected by a European patent, shall have the possibility to opt out from the exclusive competence of the Court.

つまりUPC協定83条(3)が規定することは、Opt Outがされた場合、統一特許裁判所は管轄権を剥奪され、各国国内裁判所のみが管轄権を有し、各国裁判所での手続きには各国の国内手続法が適用されることです。しかしUPC協定83条(3)には、Opt Outがされた場合、各国裁判所はどの実体法を適用するかについては何ら規定されていません。

つまりOpt Outがされた場合であっても各国裁判所はUPC協定3条(c)に従い、実体法として各国の国内法ではなくUPC協定を適用しなければならないという解釈が可能です。

そうすると「Opt Outすることで判例の蓄積が多く予見性の高い各国の国内法を適用した各国裁判所による判断が得られる」という巷で謳われているOpt Outのメリットが怪しくなります。

UPCの準備委員の比束縛的見解ではOpt Outがされた場合、各国国内裁判所は実体法として各国の国内法を適用すべきとしています。

一方でOpt Outがされた場合であっても各国裁判所は実体法として各国の国内法ではなくUPC協定を適用すべきとの意見も多数あります(Tilmann, Mitt 2014, 58, and idem, JIPLP (2014), Vol. 9, No. 7, 575; Nieder, GRUR 2014; Schröer, GRUR Int 2013; Forwood (Note 16), p. 3/4; Eck, GRUR Int 2014)。

つまりUPC協定の発効後に、Opt Outがされた場合であっても各国裁判所は実体法として各国の国内法ではなくUPC協定を適用すべきと例えば欧州司法裁判所によって決定されることもあり得ます。

したがって欧州特許のOpt Outの要否を検討する際に、「Opt Outすることで判例の蓄積が多く予見性の高い各国の国内法を適用した各国裁判所による判断が得られる」という巷で謳われているメリットは決定的でないことを考慮したほうがよいです。

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