保護範囲はクレームによって定められるという原則を疑ってしまうBGH判決

先日の記事「ドイツの裁判所によるクレーム解釈の原則」で保護の範囲はクレームによって決定されることを説明しました(ドイツ特許法14条)。今回はこの原則を疑ってしまうようなドイツ最高裁(BGH)の判決(事件名:Rotorelemente、ケース番号:X ZR 43/13)を紹介します。

1. クレーム1

 […]
 各要素(8)の少なくとも一部を打ち抜くことによって本体部分(10)を提供するための静止した第1ダイ部材(22)と、
 打ち抜きにより各要素(8)のポール部分(12)を提供するための可動の第2ダイ部材(32)と、[…]
 を含む機械。

2. 明細書の記載

ダイ部材22は、ロータ要素のポール部分の周囲の一部に対応するダイ面をそれぞれ提供する2つのダイ開口24a、24bを含む。
“The die member 22 comprises two die apertures 24a, 24b, each providing a die surface which corresponds to part of the periphery of the pole portion of a rotor element.”

可動ダイ型部材32は、本体部分10の一方の側に対応するダイ面をそれぞれ提供するダイ開口34a、34bと、2つのダイ開口34a、34bの間に延びる第3のダイ開口35とを含む。
“The moving die member 32 comprises die apertures 34a, 34b each providing a die surface corresponding to one side of a body portion 10, and a third die aperture 35 extending between the two die apertures 34a and 34b.”

解説:

クレーム上では第1ダイ部材(22)が提供するのは本体部分(10)で、可動の第2ダイ部材(32)が提供するのははポール部分(12)とされています。しかし明細書を参照するとこれは明らかに誤りで、正しくは第1ダイ部材(22)が提供するのがポール部分(12)で、可動の第2ダイ部材(32)が提供するのが本体部分(10)であることが分かります。

3. 論点

明細書および図面を参照するとクレーム1における本体部分(10)およびポール部分(12)との順序が明らかに間違いであることが分かる場合、クレーム1はどのように解釈すべきか。

4. BGHの判断

4.1. 結論

明細書、図面、および従属クレームの全体的な内容から、クレーム1において、本体部分とポール部分とが逆転しており、クレーム1は、以下のように解釈べきであることが明らかである。

 […]
 各要素(8)の少なくとも一部を打ち抜くことによってポール部分(12)を提供するための静止した第1ダイ部材(22)と、
 打ち抜きにより各要素(8)の本体部分(10)を提供するための可動の第2ダイ部材(32)と、[…]
 を含む機械。

4.2. 判決文の抜粋

明細書および他のクレームを参照してクレームを解釈した結果、クレームで用いられた2つの用語を入れ替えるべきことが明らかな場合、クレームの意味を追求するに際し、それ自体が明確な文言は決定的ではない。
”Bei der Ermittlung des Sinngehalts eines Patentanspruchs ist auch ein für sich genommen eindeutiger Wortlaut nicht ausschlaggebend, wenn die Aus-legung des Anspruchs unter Heranziehung der Beschreibung und der weite-ren Patentansprüche ergibt, dass zwei im Patentanspruch verwendete Be-griffe gegeneinander auszutauschen sind.”

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